1945 憲法研究会「憲法草案要綱」


憲法草案要綱 憲法研究會
高野岩三郎馬場恒吾杉森孝次郎森戸辰男岩淵辰雄室伏高信鈴木安蔵
現代語訳:山本泰弘

根本原則(統治権)
1.1.日本国の統治権は日本国民が有する。
1.2.天皇は国政を自ら執り行わず、国政全ての最高責任者は内閣とする。
1.3.天皇は国民の委任により、専ら国家的儀礼を司る。
1.4.天皇が即位する際は、議会の承認を経ることとする。
1.5.摂政(天皇の代理または補佐役)を置くかどうかは議会が決める。

国民の権利や義務
2.1.国民は法律の前に平等であり、生まれや身分に基づくあらゆる差別は廃止する。
2.2.爵位(「公爵」や「伯爵」などの、貴族の身分)、勲章、その他の栄典は全て廃止する。
2.3.国民の言論・学術・芸術・宗教の自由を妨げるどのような法令も、発することはできない。
2.4.国民は、拷問を加えられることはない。
2.5.国民には、①国民請願、②国民発案、そして③国民投票の権利がある。
2.6.国民には、労働の義務がある。
2.7.国民には、労働し、その働きに対して報酬を受ける権利がある。
2.8.国民には、健康で文化的な生活を営む権利がある。
2.9.国民には、休息の権利がある。国家は、労働時間を一日8時間までとし、勤労者のために①有給休暇制度、②療養所、③社交や教養のためのインフラ を完備するべきである。
2.10.国民には、老いや病気、その他の事情によって働けなくなった場合に生活を保障してもらう権利がある。
2.11.男女は、社会的にも、個人間や家庭内でも、完全に平等な権利を持つ。
2.12.民族や人種による差別を禁じる。
2.13.国民には、①民主主義と平和思想に基づく人格の完成、②社会道徳の確立、③諸民族との共存共栄 に努める義務がある。

議会
3.1.議会は、次の機能を持つ。
①法律を作る権力を持つ。
②法律を議決する。
③国の予算と歳入および歳出を承認する。
④行政に関する規則を定める、その取り扱いを監督する。
なお、日本が外国と結ぶ条約のうち、法律で定める内容に関するものは、議会の承認を得なければならない。
3.2.議会は、第一院と第二院の二院制をとる。
3.3.第一院の議員の選び方は次のとおり。
①全国を一つの選挙区とする。
②満二十歳以上の男女が立候補できる。
③満二十歳以上の男女が投票できる。
④一人一人平等な票を持ち、議員を直接選ぶ。投票の秘密は守られる。
⑤政党ごとの得票数に応じて当選議員の多い少ないが決まる、比例代表制をとる。
なお、第一院の権限は第二院よりも優先する。
3.4.第二院の議員は、各種の職業のそれぞれの階層から、公の選挙で選ぶ。
3.5.法律案は、第一院において可決されれば、第二院において否決できない。
3.6.議会に休みは無い。もし議会が休会する場合は、常任委員会が代わりにその機能を果たす。
3.7.議会の会議は全て公開する。非公開の会議は行わない。
3.8.議会は、議長と書記官長を選出する。
3.9.議会は、憲法違反をはじめとする重大な過ちを追及するために、大臣や官僚を裁判に訴えることができる。その裁判を行うために、国事裁判所を設ける。
3.10.議会は、国民投票によって解散が決まったときは、すぐに解散しなければならない。
3.11.有権者の過半数が投票に参加する国民投票によるならば、議会の決議を無効にできる。

内閣
4.1.総理大臣は、第一院と第二院双方の推薦によって決める。各省庁の大臣やその他の国務大臣は、総理大臣が任命する。
4.2.内閣は、国際社会において日本国を代表する。
4.3.内閣は、議会に対し連帯責任を負う。つまり、内閣は議会の信任に基づいて成り立たなければならない。
4.4.内閣は、国民投票によって不信任と決まったときは、総辞職しなければならない。
4.5.内閣は、官僚を任命し、罷免する。
4.6.内閣は、国民の名において恩赦(特別に刑を軽くする)を行う。
4.7.内閣は、法律を執行するために命令を発する。

司法
5.1.司法権を司る裁判所は、裁判所構成法と陪審法に基づき、国民の名によって裁判を行う。
5.2.裁判官は独立であり、ただ法律のみに従う。
5.3.大審院(最高裁判所)は、最高の司法機関であり、全ての下級司法機関を監督する。
大審院長は、公の選挙によって選び、国事裁判院長を兼ねる。
大審院判事は、第二院の議長の推薦と第二院の承認を経て就任する。
5.4.行政裁判所長と検事総長は、公の選挙によって選ぶ。
5.5.検察官は、行政機関から独立である。
5.6.裁判で無罪の判決を受けた者に対しては、国家が十分な補償を行うこととする。

会計と財政
6.1.国の歳出と歳入は、毎年度詳細かつ明確に予算に表し、年度の開始前に法律として定める。
6.2.事業会計については、毎年事業計画書を提出し、議会の承認を得ることとする。
事業会計についてのみ、特別会計を設けることができる。
6.3.税を課し、税率を変更することは、一年ごとに法律によって定めることとする。
6.4.国債やその他予算に定めたものを除き、国家財政の負担となる契約については一年ごとに議会の承認を得ることとする。
6.5.皇室費は、一年ごとに議会の承認を得ることとする。
6.6.予算案はまず第一院に提出するものとする。第一院で承認された項目および金額については、第二院が否決することはできない。
6.7.税は公正に課すものとする。消費にかかる税に偏重して国民に過剰な負担をかけることは禁じる。
6.8.歳入および歳出の決算は速やかに会計検査院に提出して検査を受けた後、次の年度に議会に提出し、それが承認されたら政府の責任は果たされたとする。
会計検査院の組織と権限は、法律によって定める。会計検査院長は、公の選挙で選ぶ。

経済
7.1.経済活動は国民各自が人間に値すべき健全な生活を送れることを目的とし、正義・進歩・平等の原則に適合しなければならない。
各人の私的所有権と経済的自由は、この限度内で保障される。
所有権には、公共の利益に役立つべき義務が伴う。
7.2.土地の分配および利用は、全ての国民に健康な生活を保障できるようになされることとする。
寄生的土地所有ならびに封建的小作料は、禁止する。
7.3.著作者・発明家・芸術家の権利は保護される。
7.4.労働者をはじめ、全ての勤労者は、労働条件改善のための結社と運動の自由が保障される。
これを制限したり妨害したりする法令、契約、および処置は全て禁止する。

補則
8.1.憲法は、国会で議員の三分の二が出席し、出席議員の半数以上が同意して改正が決議されたとき、改正される。
国民請願に基づき、憲法の改正を国民投票によって決める場合は、有権者の過半数の同意があれば憲法は改正される。
8.2.この憲法の規定ならびに精神に反する全ての法令および制度は、直ちに廃止する。
8.3.皇室典範は、議会の審議を経て定めなければならない。
8.4.この憲法が公布された後十年以内に、国民投票により新たな憲法を定めるものとする。

 

※画像は国立国会図書館Webサイトより引用